【前編】新卒の給与を上げたら、先輩とほぼ同じになった。
最低賃金の上昇が続いています。
2026年度の地域別最低賃金は、各都道府県の答申を取りまとめた全国加重平均で1,177円。前年度の1,121円から56円の引き上げとなりました。引き上げ額は、1978年度に現在の目安制度が始まって以降、2番目の大きさです。各都道府県では、2026年10月1日から12月2日までの間に順次発効される予定です。
(出典:厚生労働省「全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました」)
動物病院の院長先生からすると、
「また上がるのか……」
というのが率直なところかもしれません。
特に影響を受けやすいのが、動物看護師などの新卒給与です。
最低賃金に比較的近い水準で初任給を設定している病院では、最低賃金が上がるたびに、
「このままでは最低賃金を下回ってしまう」
「来年度の新卒給与を上げなければ」
と、初任給を改定することになります。
もちろん、最低賃金以上の給与を支払うことは大前提です。
でも私は、もう一つ見てほしいことがあります。
新卒だけ上げていませんか?
たとえば、こんな病院があったとします。
新卒の動物看護師 月給20万円
3年目の動物看護師 月給21万5,000円
最低賃金の上昇を受け、翌年の新卒給与を21万円に変更しました。
すると、
新卒 21万円
3年目 21万5,000円
その差、5,000円。
3年目のスタッフは、この数年間でできることが増えているはずです。
病院の仕事を覚え、飼い主さまへの対応にも慣れ、後輩に仕事を教えることもあるでしょう。
それなのに、新しく入ってくるスタッフとの給与差は5,000円。
自分がそのスタッフだったら、どう感じるでしょうか。
「新人の給与が上がってよかったですね」
と、心から思えるでしょうか。
おそらく、その前に、
「私がこの3年間やってきたことは?」
と思うのではないでしょうか。
問題は「5,000円」ではありません
私は、この問題の本質は金額だけではないと思っています。
給与には、その病院がその人をどう評価しているのかというメッセージも含まれています。
経験を積んだ。
できる仕事が増えた。
後輩を育てている。
病院を支えている。
それなのに、最低賃金が上がるたびに新卒給与だけが上がり、自分との差がどんどん縮まっていく。
既存スタッフからすると、「新しく入ってくる人のことは考えるのに、今いる私たちのことは?」という気持ちになっても不思議ではありません。
採用するために給与を上げた結果、今いるスタッフのモチベーションを下げてしまう。
それでは本末転倒です。
私は「今いるスタッフ」をまず大切にしてほしい
もちろん、新しく入社してくれるスタッフも大切です。
採用しなければ、病院の未来をつくることはできません。
でも私は、それ以上に、今すでに病院で活躍してくれているスタッフを大切にしてほしいと思っています。
病院のことを理解し、飼い主さまとの関係をつくり、毎日の診療を支えてくれている人たちです。
採用する人の給与を上げるために、今いるスタッフの価値が相対的に下がってしまう。
そんな給与改定にはしてほしくありません。
では、全員の給与を上げればいい?
そう単純な話でもありません。
スタッフ10人の月給を5,000円ずつ上げれば、それだけでも単純計算で年間60万円。
給与は一度引き上げれば、基本的にはその後も毎月発生する固定費です。
院長先生からすれば、
「そんなこと言われても、人件費にも限界があるよ……」
ですよね。
私もそう思います。
既存スタッフを大切にすることは、病院経営を無視して給与を上げ続けることではありません。
では、どうするのか。
私は、最低賃金が上がるたびに給与を“継ぎ足す”のではなく、一度、病院全体の給与設計を見直す時期に来ているのではないかと思っています。
後編では、給与テーブルがない動物病院も含めて、これからの給与をどう考えればいいのか、具体的に整理してみます。
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